通貨ユーロの崩壊
~ユーロ通貨圏の再構築と金融マーケットへの示唆~
イエンズ ノルヴィック著 マグロウヒル社 201310月出版
欧州危機はなぜ長期化したのか、そして政策当局者はなぜ失業率の急激な上昇を容認してきたのか。

通貨ユーロ誕生の歴史的背景通貨ユーロは欧州統合という政治的動機から生まれたものであり、経済的な視点は統合の過程で重要視されなかった。自国通貨を失うことは各国経済にとって非常に重要な決断であったにもかかわらず、経済的な側面が軽視されたことは歴史の皮肉だ。

ユーロ圏の結束を担保するような政治組織の欠如通貨圏としての政策は、ユーロを通貨として利用する17か国間の妥協の産物だ。この政策決定プロセスは非効率で緩慢だ。経済・金融危機に効果的に対処するための政治組織が存在しないことは、ユーロ圏にとって大きな制約である。この制約のために、ユーロ危機の直撃を受けた国がデフレに陥っているにもかかわらず、有効策のないまま放置されている。このタイプの景気低迷は、何十年も前に金本位制下でみられた現象と似たものがある。デフレ下での経済再建に伴う痛みは政治的対立を生み、それこそが次なる危機の火種となるだろう。

通貨ユーロの解体は欧州統合を深化させるための一つの解決策ユーロを導入している加盟国が共に同じ道を歩むことを拒否し続けるならば、論理的な帰結として、自国通貨の復活と各国が独立した経済政策運営を行うという昔の世界に戻ることになる。通貨ユーロの解体というテーマは複雑で十分に理解されているとは言い難い。ユーロ崩壊のプロセスやその経済的帰結については誤った言説が散見される。

通貨ユーロの失敗と新生通貨の可能性現行の通貨システムに代わり、欧州政策当局者がEMU2.0と呼ぶ新通貨構想が進められている。しかし、これはまだ未完であり、最終的にどのような形に落ち着くのかを予見することは難しく、現在の欧州危機を乗り越えられるシステムなのかどうかも分からない。

ヨーロッパ全体の運命、そして金融市場の未来は通貨ユーロの今後に懸っている。強い通貨となるのか、それとも弱い通貨となるのか?それとも解体されるのか?現在の停滞をどのように打破するのかは通貨ユーロの展望に大きな影響を与えるだろう。それは同時に、欧州市民の生活、世界の金融市場にも影響を及ぼすだろう。

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